CD「チャイコフスキー四季」CDノートから

 1990年第9回チャイコフスキー国際コンクールにおいてディプロマを受けると共にベスト・バッハ演奏者賞を受賞。モスクワ音楽院大ホールにおける記念演奏会に出演。
その後,1992年に初めて作成したCDは,チャイコフスキー「四季」です。
当時のCDノートには,音楽評論家が次のように書いてくださっています。≪松村英さんのチャイコフスキー「四季」に寄せて≫
 松村英臣さんが弾くチャイコフスキー「四季」を二度ほどいずれも親しいものの集いの場で聴いたことがあります。そこで,松村さんは,私たちの求めに応じ,この曲集から数曲を快く奏でてくれたのでした。本当の贅沢,とはそのようなひとときのことを言うのでしょう。その時,松村さんの指先から流れる音楽に私たち聞き手は包まれ,心開かれた,さらに暖かい‘円居’の場へと引き込まれていったのです。
 ところで,たとえサロンで演奏したとしても,‘集い’の場をそのような‘円居’の場にかえることのできる音楽家はそんなにたくさんいるわけではありません。松村さんがそのような音楽家であるのは,松村さんの音楽が作曲者に寄り添い,聴き手に寄り添う優しさにあふれたものであるからなのでしょう。音楽に触れることの喜びを私たちにいつも与えてくれるソリスト松村さんが一方で器楽奏者や声楽家との優れた共演者であり,さらにピアノデユオでは,主として音楽の土台や骨格を担う第2ピアノを進んで受け持つのは,自身「寄り添う」音楽家であることを自覚されているからだと思います。もちろんこのCDの演奏でも1875年から76年にかけてチャイコフスキーが,ある雑誌の企画のために書いた,これら12曲に潜むチャイコフスキーのメランコリーにやさしく寄り添っていて,それは例えば,夏から秋,収穫から狩りにかけての動的な動きに対し、その描写的な面を強調するのではなく,それを見つめるチャイコフスキーの心の在り方に重心を移した演奏になって表れているのです。
 チャイコフスキーの没後100年の年に,松村英臣さんから送られる,この素敵な贈り物をたくさんの人たちに受け取ってもらいたいと思います。